航空機を利用する時の注意
(株)日本航空インターナショナル 前健康管理室医師 大越 裕文
機内環境の理解 機内環境の健康への影響 |
事前の準備と注意 | 飛行中の注意 |
飛行機内の環境
機内は気圧を調節する装置(与圧装置)とエアコンにより地上に近い環境を人工的に作り出していますが、地上と全く同じ環境ではありません
>水平飛行中の機内気圧は約0.8気圧程度で、機内酸素分圧も地上の約80%となります。
>気圧変化は航空機の離陸後の上昇および着陸前の下降の各々15〜30分間に起こります。
>機内の気温は、エアコンにより摂氏24度前後で一定に保たれます。
>長時間のフライトでは機内湿度は20%以下となります。
>振動は、離着陸時や気流の不安定な場所を通過したときに起こります。
>長距離国際線の場合、長時間座ったままの姿勢となります。
機内環境の健康への影響
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健康への影響
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低酸素分圧
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心肺疾患の悪化、低酸素症、減圧症
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気圧の変化
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航空性中耳炎、航空性副鼻腔炎 航空性腹痛、航空性歯痛
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低湿度
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脱水、鼻腔、咽頭粘膜の障害 角膜障害、喀痰の粘調化
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飛行機の揺れ
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空酔い、けが、血圧の上昇
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長時間の座位
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深部静脈血栓、失神 前立腺肥大患者の尿閉、痔疾の悪化
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事前の準備と注意
>主治医の先生に事前に飛行機旅行につき相談しましょう。
( 参考)航空機旅行が適さない状態(表1)
>不明な点やリクエストがあったら、航空会社に相談しましょう。>以下に該当する場合は、航空会社に診断書を提出する必要があります。
●酸素吸入など機内で医療行為を行う場合
●ストレッチャーを使用する場合や最近まで入院していた場合です。
●通常、Medical Information Form(MEDIF)と呼ばれる世界共通の診断書フォームを用いられます。担当医がこれらに回答して航空会社に提出することになります。
(参考)MEDIFは航空会社のホームページからダウンロードできます。
JAL(PDF)
ANA(PDF)
>診断書、病歴、薬剤名、悪化時の対応を記載した英文の手紙、心電図、血糖値などのデータ、主治医の連絡先を記載した医療情報を用意しましょう。
>必要に応じ、常用薬、市販薬、鼻炎スプレー、めがね等を準備しましょう。
>飛行時間、時差等を考慮にいれた余裕のあるスケジュールを選択しましょう。
>万一、機内や海外で疾病が悪化した際の医療費を補償する旅行保険に加入しましょう。
>移動時の荷物はできるだけ少なくしましょう。
>便秘をコントロールしておきましょう。
>機内で具合が悪くなったときの対応方法を覚えて起きましょう。
飛行中の注意
- まず、肌の露出の少ない、ゆったりとした服装で搭乗しましょう。
- 医療情報と常用薬を必ず機内へ持参しましょう。
- 主治医からの注意事項を守りましょう。
- 食事は少量、炭酸飲料、アルコールは控えめにしましょう。
- 適度に水を補給しましょう。塩分が少量入ったスポーツドリンクが脱水予防に有効です。
- 着席時はシートベルトを着用しましょう。
- 耳がつまった感じがしたり、痛くなったら水を飲んだり、バルサルバ法を行ってください。
http://www.jal.co.jp/health/before/symptoms.html - コンタクトレンズははずしておいたほうが無難です。
- 旅行者血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防のために定期的に足関節を中心とした運動をしましょう。
- 具合が悪くなったらすぐに乗務員に申し出ましょう。
参考)旅行者血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)
“いわゆるエコノミークラス症候群“は、航空機旅行中に起こった下肢の静脈の血栓症(深部静脈血栓症)とその血栓が肺の動脈につまった血栓症(急性肺動脈血栓塞栓症)です。長時間足を動かさずにすわっていることによる静脈血のうっ滞、血液粘度の上昇が関与していると考えられている。 “いわゆるエコノミークラス症候群“はエコノミークラス以外の航空機利用者やバス・列車・船などの交通機関を利用した人からも発生していることから、旅行者血栓症という名称で旅行中のすべての乗り物中で血栓症の予防を行うように注意喚起がなされています。 特に血栓になりやすい人は、主治医の先生と血栓予防対策についてご相談ください。